科学技術社会論
見上 公一
文化人類学
デサンモーリス, グレッグ
分からないことが多くあります。それでも、比較的少人数のクラスで、私たち教員だけではなく履修する学生も一緒になって、私たちが選んだトピックについて日々の経験なども含めた様々な角度から議論していく計画です。英語を流暢に操ることができるよりも、まずはトピックに関心を持って、授業を通じて積極的に学ぼうとする姿勢が重要だと考えています。クラスでは、全ての履修生が失敗することを恐れずに議論に参加できる環境を重要視します。履修する学生も、他の学生に対して敬意を持って議論に参加してもらいたいと思います。
なぜ食べ物をテーマに選んだのでしょうか?
食べ物は、健康や経済、政治、文化、アイデンティティ、環境など、私たちの生活の様々な側面と密接に関わることから、GICコースのような分野横断的な授業で扱うテーマに適しています。また、近年フードスタディーズという学際的な研究領域も急速に発展しており、農学や栄養学だけでなく、文化人類学や歴史学、哲学、文学などの多くの研究分野の研究者たちが食べ物という共通のテーマについて研究を行なっています。そしてもちろん、食べ物は私たち一人一人にとって身近なテーマであり、たとえ研究をしていなくてもこれまでの個人的な経験から言えることがきっと何かあるはずです。
デサンモーリス:
私はずっと食べ物に興味があったのですが、最初はただ食べることが好きだったというのがきっかけです。立命館大学の国際関係論の修士課程に進んだ時に、初めて研究のテーマとして食べ物を扱うことになりました。その時は京都の地元の農産業が国際化の流れにどのように対抗しているのかを題材として研究を行いました。そしてアメリカのピッツバーグ大学で文化人類学の博士課程へと進み、そこでフードスタディーズという研究領域が存在していることを知って、国際学会のthe Association for the Study of Food and Societyでも積極的に活動するようになりました。
見上:
私も食べ物については色々な観点から興味がありますが、特に海外留学をした際に、周りの人がどのようなときにどのような食べ物を食べるのかという判断に面白さを感じました。みんなで料理を持ち寄って、食事したりすることも多かったので。社会学の議論の中で、食べ物はコミュニケーションの道具として理解できるという内容を見つけたときには、とても腑に落ちる感じがしました。そして、研究を進めている中で遺伝子組換え食品に関する議論について知りました。それ以来、科学技術がどのような形で私たちの食文化に影響を与えるのかという問いに強い関心を抱いています。
どのような学際的な視点からアプローチするのでしょうか?
私たちのコースはいくつかの軸になるテーマとそれらをもう少し細かくしたサブ・テーマの組み合わせで構成しています。各テーマについてフードスタディーズや科学技術社会論などの学術研究の内容を参照しながら見ていくことになります。また、履修する学生には、普段の経験や日常的に耳にするような食べ物についての意見なども気にしてもらいたいと考えています。食べ物というテーマは、日々の生活を送る中で関心を持った内容をどのように学術研究の対象として扱うことができるかを考えるのに適しています。このコースを履修することで、日常生活から芽生えた些細な関心の中にも素晴らしい学術研究の可能性が秘められていることを実感してもらうと同時に、ただ単に興味があるという段階を離れて学術研究として扱うとなった時の難しさも感じてもらえればと思います。
履修する学生には何を期待していますか?
履修する学生には授業の内容に関心を持ち、クラスでの議論に積極的に参加してくれることを期待しています。英語が流暢であることや、事前に内容についての知識を持っていることなどは特に期待していません。何よりも、興味を持ってコースのテーマと向き合い、他の履修生に対して自分の意見を伝えるとともに、他の履修生の意見に対してきちんと耳を傾けるという姿勢が大切だと考えます。自分と他者との経験や感覚の違いに寛容になりながらも、類似点や相違点に対して敏感になることが、建設的に学術的な議論を行う上では重要であり、コースを通じてそれを実践してくれることを望んでいます。
*所属・職名等は取材時のものです。